希望の道

令和4年5月21日「より良い地域ケアを考える会」主催の講演会で初めて岩岡美咲さんという方の生の声をお聞きした。彼女のプロフィールは以下の通りである。

1988年生まれ。高校2年生で体操競技中に受障し第4頸椎脱臼骨折。頭部以下完全四肢麻痺、呼吸筋麻痺により気管切開+人工呼吸器。総合せき損センターにて反射シールを貼った口元を動かし、シールの動きを読み取る機器を使用することでパソコン操作が可能となる。退院後、往診・訪問看護・介助者派遣・訪問リハ・訪問マッサージ・訪問入浴を利用し在宅生活。総合せき損センターの先生から後押しを受けて入院し気切を閉じ、人工呼吸器を口でくわえるNPPVへ変更する。発声可能となり吸引も必要なくなる。呼吸器をくわえながら会話や食事、パソコン操作ができるようになり介助者との外出機会も増えてきている。

講演終了後のQ&Aで「今までの対人関係において辛い思いは?」という少し意地の悪い質問をした。彼女の返答は「ありません、一度も、私は恵まれていました」であった。ホッとしたと同時にかすかな危ぶみがよぎった。

ハンデを負ったメンバーを社会全体で支え、フルメンバーとなるべくその自立を助け、やがて他者を援助する側に立っていただく。それが社会福祉に於ける現時点での対人援助という課題へのひとつの解答である。それは近代国家及び市民が資本主義経済の発展の中様々な社会問題を克服する過程でようやくたどり着いた為政者はもちろん市民間においても共有してきた到達点である。

少なくとも公的な場でこれを否定すると炎上を覚悟しなくてはならない。

だが、人各々の私的な感情レベルではそうはいかない。逆差別感、というのがある。生保、被差別、男女等様々な場面で強いものは平等主義の名のもとに自らの立場を保護しようと画策する。彼(彼女ら)は生産性のみを判断基準の上位に置き効率化の御旗を掲げ有用でない存在を切り捨てていく。世間には残念ながらそういったおおよそ人間性とはかけ離れた思考傾向に浸かりきっている人も少なくはない。

彼らとの対峙はその瞬間に「戦い」となるのだろう。彼女はそういった競争社会に入ろうとしている。私は様々な戦いのスキルをこれから積み上げていくであろう彼女を応援したい。

令和4年5月26日

ケアマネ矢田光雄のひとり言

福岡県北九州市小倉北区真鶴にて「小倉ケアプランセンター」というケアマネ・ヘルパー事業所を経営しております。 こちらでは日々のひとり言をつぶやいております。

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